後継者選びで、いちばん危険なのは、
「要領がいい人」を選ぶこと だ。
これは、断言できる。
20年、組織を見てきて、間違いない。
経営者から、
「うちには優秀な後継者候補がいる」
と相談されることがある。
聞いてみると、たいてい、こう言われる。
「彼は、本当に要領がいいんだ。
何を頼んでも、3日で形にする。
社員からの評判もいい」
私は、その瞬間、
「ああ、たぶん、この会社、5年後に揺らぐな」 と感じる。
なぜ、要領のいい後継者が、危ないのか。
20年の現場感で、3つに整理した。
ひとつ目は、痛みを引き受けない。
要領がいい人は、
問題を、根本から解くより、
「うまく回避する」 のが、得意だ。
これは、若手社員としては、最強の武器だ。
でも、経営者になった瞬間、
これが致命的になる。
なぜなら、
経営の本当の仕事は、
「誰かに痛みを引き受けてもらう決断をすること」 だからだ。
赤字部門の閉鎖。
長年勤めた幹部の退任。
家族の中での事業承継のもつれ。
これらは、要領では解けない。
要領のいい人は、
「もう少し様子を見ましょう」と言って、
決断を、3年先送りにする。
その3年で、会社の体力が、確実に削られる。
ふたつ目は、嫌われる決断を避ける。
要領がいい人は、
「みんなにいい顔をする」 のが上手い。
社員にも、顧客にも、銀行にも、家族にも。
これも、若手としては大事なスキルだ。
でも、経営者になると、
「全員にいい顔をする」ことは、
「誰にも責任を取らない」 ことと、ほぼ同じ意味になる。
社員Aを取れば、社員Bが傷つく。
それでも、
「Aを取る」と決めて、Bには直接、自分の口から伝える。
これが経営の覚悟だ。
要領のいい人は、これを避ける。
「人事を介して伝えてくれ」と言う。
その瞬間、組織は、
「うちの社長は、自分では言えない人だ」と気づく。
そこから、信頼が、ゆっくり、しかし確実に、崩れていく。
みっつ目は、部下の「機微」を読まない。
要領のいい人は、
「部下が出してくる成果物」は、よく見る 。
でも、
「部下が成果物を出すまでの、感情のゆらぎ」は、見ない 。
なぜなら、彼らにとって、
「結果がよければOK」だからだ。
これは、現場の若手としては正しい。
でも、経営者になると、
部下は、
「自分の苦しみを、見ないでほしい」のではなく、
「見てほしい」と思っている。
苦しみを見ずに、結果だけ褒める上司の下では、
人は、長期的には、
「使われている」 という感覚を持つ。
そして、優秀な人ほど、
その感覚に、敏感に反応して、辞めていく。
では、後継者には、何が必要か。
私の答えは、たった一つだ。
「迷い方」 だ。
迷い方、と書くと、
「優柔不断」と誤解されそうだ。
でも、違う。
**「これは、本気で迷うべき問題なのか、
それとも、3秒で決めていい問題なのか」**
を、選別できる力。
そして、
**「本気で迷うべき問題」を、
3日でも、3週間でも、
ちゃんと迷い続けられる胆力**。
これが、後継者の、本当の能力だ。
要領がいい人は、
すべての問題を「3秒で決める」癖がついている。
迷うべき問題まで、要領で処理する。
その瞬間、
「経営の重さ」が、組織から消える 。
そしてAI時代になって、これはもっと顕著になる。
AIは、要領の塊だ。
質問すれば、3秒で、最適解を返してくる。
つまり、
「要領の良さ」は、AIで完全にコモディティ化する 。
AI時代の経営者に残るのは、
「AIには出せない、迷い」だけだ。
迷うことは、効率が悪い。
時間がかかる。
部下から見ると、頼りなく見える時もある。
でも、
「この決断には、私が3週間迷った重さが乗っている」
という空気は、
社員に、必ず、伝わる。
伝わった瞬間、
組織は、その経営者を、本気で支え始める。
経営者のあなたへ。
後継者候補を見るときに、
「要領がよくて、社員からの評判もいい」を、
そろそろ、第一基準から外してください。
代わりに、
「彼は、本気で迷ったことがあるか」
を、見てほしい。
迷った末に、嫌われる決断をしたことがあるか。
迷った末に、自分の母親や妻を、傷つけたことがあるか。
迷った末に、3日眠れなかった夜があるか。
その経験が、
たった一度でもある人なら、
たぶん、
会社を、次の20年に渡せます。
私自身も、家業を継ぐかどうかで、3年迷いました。
その3年は、効率が悪かった。
でも、その3年があったから、
いま、職人さんたちの前で、
胸を張って、立っていられます。
迷うことは、
AI時代に残された、
経営者の、最後の聖域です。

