100年続いた家業を、ECに乗せる。
口で言うのは、簡単だ。
でも、
職人さんに「Amazonに伝票を貼ってください」と頼むのに、
私は、3年かかった。
家業を継いだのは、40代後半。
父が亡くなって、半年が経った頃だった。
工房には、70代の親方を中心に、
職人が3人。
全員、父より年上。
私が、本業の人事の合間を縫って、
東京から地方に通うようになった。
最初に、
職人さんたちに、
「これから、Amazonにも出します」
と、伝えた。
返ってきたのは、
沈黙 だった。
親方が、ぽつりと、
「ええよ、勝手にやってくれ」
と言った。
その「ええよ」の中には、
「私らは、それには、関わりたくない」
という、明確な距離が、あった。
それでも、私は、
副業のAmazon物販で得たノウハウを、
家業に注ぎ込んだ。
商品撮影。商品名のローカライズ。価格設定。
LP改善。広告運用。レビュー対応。
最初の半年で、
少しずつ、注文が入り始めた。
問題は、
注文が入った時の、現場のオペレーション だった。
工房は、
100年、
「卸先の問屋に、まとめて納品する」
というオペレーションで、回っていた。
1個ずつ、お客様の住所宛てに、
商品を発送する作業は、
職人さんたちにとって、
完全に、未知の作業だった。
最初、私が、自分でやろうとした。
東京から週末に通って、
土曜日の朝から、
注文書をプリントアウトして、
商品を梱包し、
運送会社の伝票を貼って、
集荷を待つ。
これが、
最初の3ヶ月で、
物理的に、限界を迎えた。
職人さんたちに、
「悪いんですが、平日の発送、お願いできませんか」
と、頼みに行った。
工房の隅で、
親方は、しばらく黙っていた。
そして、
「うちは、商品を作る職人や。
伝票貼り、ようわからん」
と、言った。
私は、その日、
「家業のEC化は、商品を変えることじゃない」
と、
腹に落ちた。
家業のEC化は、文化を変えること だった。
職人さんたちに、
「あなたたちの誇りある仕事の延長線上に、
伝票貼りがあるんです」
と、伝える文化づくりを、
私は、3年かけて、
少しずつ、やった。
具体的に、私がやったことは、3つだ。
ひとつ目は、注文書に「お客様の声」を一行、印刷した。
注文書のいちばん下に、
そのお客様が、過去にうちの商品をリピートしてくれているか、
どの商品をよく買ってくれているかを、
ひとことだけ、印刷するようにした。
例えば、
「●●様:3回目のリピート購入です」
これを、
職人さんたちが、伝票を貼る前に、
ふと、目にする状態にした。
最初は、誰も反応しなかった。
ところが、半年経ったある日、
親方が、ぽつりと、
「3回も、買ってくれはるんやな」
と、
私に言った。
その瞬間、
**伝票貼りが、職人さんの中で、
「卸への作業」から、
「お客様への手紙」に変わり始めた**。
ふたつ目は、職人さんの手元の動画を、商品ページに載せた。
最初、職人さんたちは、
「動画なんて、やめてくれ」と言った。
私は、3ヶ月かけて、
「あなたの手元が、お客様にとっては、
世界で一番美しい」
と、
毎週、伝え続けた。
ある朝、
親方が、
「ま、撮るんやったら、勝手に撮ってくれ」
と、言った。
iPhoneで、3分の動画を撮らせてもらった。
それを、商品ページに載せた瞬間、
転換率が、3倍になった。
職人さんたちは、
その数字を見ても、
最初は、無反応だった。
ところが、
商品ページのレビュー欄に、
「動画を見て、震えました」
という一行が来たとき、
親方は、
初めて、自分のスマホで、自分の動画を見た。
その日から、
「もうちょっと、別の角度でも撮るか」
と、
職人さん側から、提案が来るようになった。
みっつ目は、年商を、3年目で初めて、職人さんに開示した。
これが、いちばん勇気が要った。
100年、家業の数字は、
経営側だけのものだった。
3年目の冬、
私は、決算書を持って、工房に行った。
「今年、これだけの売上が立ちました。
うち、ECが◯%です。
来年、職人さん3人に、
去年よりも、ちゃんと、お礼ができます」
そう、伝えた。
親方は、しばらく、紙を見ていた。
そして、
「親父さん、たぶん、空でほっとしてはるわ」
と、ひとこと、言った。
これが、
100年続いた家業を、
ECに乗せるための、3年だった。
ECは、技術だけでは、回らない。
100年の文化を、3年で、ゆっくり変える作業 だった。
そして、その3年で、
私が学んだのは、
「数字は、現場の温度を上げてから、開示する」 という、
順番の大切さだった。
AI時代になって、
伝統産業のEC化は、もっと加速する。
ChatGPTで商品紹介文も書ける。
AI画像生成で商品撮影も置き換えられる。
でも、
**職人さんに、伝票を貼ってもらう瞬間の、
3年分の文化づくり** は、
AIには、できない。
老舗の二代目、三代目で、
EC化に悩んでいる、あなたへ。
商品を変える前に、
現場の文化を、ゆっくり、変えてください。
3年、かかります。
でも、3年かけて変わった文化は、
100年、続きます。
私の工房では、
いま、親方が、
伝票貼りの時に、
お客様の名前を、声に出して、確認してくれます。
それが、
100年の家業の、新しい100年の、
たぶん、最初の1ページです。

