AIで採用面接を一次審査した結果、辞退率が3倍になりました。

AIの働き方

「辞退率が、3倍です」

報告を受けた朝、私は、コーヒーを口に含んだまま、3秒、固まった。

AIで効率化したはずの採用が、いちばん大事な数字を、悪化させていた。

その期、私たちは一次面接にAIを入れていた。

応募者がスマホやPCに向かって質問に答え、音声とテキストを解析して、合否の参考スコアが出る。そういう仕組みだ。

導入の動機は、はっきりしていた。

人事は私を含めて数人。面接シーズンには、一次面接だけで一人あたり週に十数本。本業の労務も給与もあるなかで、夕方から夜にかけて延々と面接を続ける日々。

「これ、何とかしないと潰れるぞ」

そう思っていたところに、AI面接の話が来た。導入してみたら、たしかに、めちゃくちゃ楽になった。

一次面接にかけていた時間は、体感で7割減った。

スクリーニングのブレも減った。「あの面接官、点が辛い」みたいな属人性もなくなった。

数字だけ見れば、大成功のはずだった。

ところが、内定を出してから、おかしなことが起きた。

例年なら、内定辞退は出ても2〜3割。それが、その期は、6割を超えた。

最終面接で「ぜひ御社で」と目を輝かせていた若者が、内定通知を出した翌週に、淡々と辞退のメールを送ってくる。

電話で理由を聞いても、はっきりした答えは返ってこない。

「他社さんに決めました」

「家族と相談した結果……」

定型句のような返事ばかりが続いた。

その時の私は、正直、原因がよく分からなかった。

景気のせいだろう、と思いたかった。売り手市場だから、と片づけたかった。

でも数字を見ると、同じ地域の同業他社の辞退率は、そこまで上がっていない。

うちだけが、突出して、選ばれなくなっていた。

応募者にアンケートを取り直し、辞退者にもダメ元で連絡し、社内の若手に「もし君が今年応募する側だったら、どう感じる?」と聞いて回った。

そこで、ようやく見えてきたものがある。

ひとつ目。

応募者にとって、AI面接で評価されるという体験は、その会社の文化を、想像以上に冷たく感じさせていた。

「最初の面接が、機械でした」

その一文が、彼らの中で、会社全体のイメージを決めていた。

私たちにとっては「一次選考の効率化」でも、応募者にとっては「初めて触れた、その会社の顔」だった。

そこにいたのは、人ではなく、画面の向こうのアルゴリズムだった。

地方の老舗、人を大事にする会社、と私たちがどれだけ説明会で語っても、最初の体験で、すでに上書きされていた。

ふたつ目。

AIで「合格」を出した候補者は、自分が会社に「選ばれた」という実感を、ほとんど持っていなかった。

人間の面接官と話して、目を見て、笑い合って、ときに突っ込まれて、それでも「うちに来てほしい」と言われる。

その経験を経て、人は「この会社に選ばれた」と感じる。

AIに通過した、というのは、彼らにとっては、エントリーシートが通った、と同じ感覚だった。

選ばれた、ではなく、ふるい落とされなかった、だ。

だから、内定通知を持っていても、心の重みが軽い。

他社からもう少し条件のいいオファーが来れば、すっと乗り換えられてしまう。

みっつ目。

人事担当者と直接話す機会が、一次の時点で消えていた。

これまで一次面接は、評価の場であると同時に、口説きの場でもあった。

「うちの仕事は地味だけど、こういうところが面白い」

「君のさっきの話、現場の○○さんがすごく好きそうだ」

そういう、雑談に近いやり取りの中で、応募者は会社との「線」をつないでいた。

一次がAIになったことで、その線が消えた。

応募者にとって、内定はもはや「絆」ではなく、「保険」になっていた。

数字を出してみると、残酷だった。

一次にAIを通った人ほど、辞退率が高い。

人間の追加面接を間に挟んだグループは、辞退率がほぼ例年並みだった。

その時、はっきり分かった。

私たちは、効率化してはいけない場所を、効率化していた。

選考の手間を減らしたつもりで、入社後何十年も続くはずだった関係性の、最初のひと針を、はしょっていた。

翌期、私はAIの使い方を、ばっさり変えた。

一次面接で合否判定にAIを使うのは、やめた。

代わりに、ChatGPTやClaudeを「面接官の準備」に使うようにした。

応募者の職務経歴書から、深掘りすべき論点を出してもらう。

想定問答を作ってもらう。

面接後のメモから、強みと懸念を整理してもらう。

表に出るのは、あくまで人。AIは裏方に回す。

すると、面接の質は、はっきり上がった。

経験の浅い若手の面接官でも、AIに事前にコーチングを受けることで、ベテラン並みに鋭い質問ができるようになった。

応募者からのアンケートにも、「質問が深かった」「ちゃんと自分を見てもらえた気がした」という声が増えた。

辞退率も、例年水準に戻った。

このとき、自分の中で、ひとつ言葉ができた。

AIに任せていいのは「判断の材料を整える仕事」。

AIに任せてはいけないのは「人と人とが、関係を結ぶ瞬間」。

採用に限らず、評価面談でも、退職面談でも、たぶん同じだ。

効率化していい場所と、しちゃいけない場所の境目を間違えると、数字は良くなっても、会社の根っこが痩せていく。

AI時代に人事がやるべき仕事は、「AIをどこに入れるか」ではなく、「AIをどこに入れないか」を決めることなのかもしれない。

その線引きは、流行りのツールが教えてくれない。

自社の歴史と、自分たちが大事にしてきたものを知っている人間にしか、引けない線だ。

だから、ベテランの人事が、まだ要る。

最後にひとつだけ。

新しい仕組みを入れるたび、私は自分にこう聞くようになった。

「これは、効率化が目的になっていないか」

「これを入れたことで、誰の体温が下がるか」

その問いに、まあ大丈夫だろう、と即答できないなら、いったん立ち止まる。

3倍の辞退率という、けっこう派手な失敗をやらかしたから、得られた問いだ。

授業料は、安くなかった。

でも、AIに何でも任せていい時代なんかじゃない、と腹落ちできたのは、大きかったと思う。

機械でできることが増えるほど、人間にしかできないことが、はっきり見えてくる。

それを面白がれる人事でいたい、と、今は思っている。

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