中間管理職になって、
気づいたら、7年が経っていた。
その7年で、
弱音を吐ける場所が、年々、減っていく。
家庭でも、職場でも、同期会でも。
最初は、
「自分は、まだ弱音を吐ける」と思っていた。
40代前半、課長になった頃。
居酒屋で同期に「最近きついわー」と笑いながら言える程度の、
軽い愚痴は、まだ口にできた。
ところが、50歳を過ぎて、
ある夜、
居酒屋で「最近きついわー」と言いかけて、
口をつぐんだ。
なぜ、つぐんだか。
その瞬間、相手の同期が「役員」になっていたから だ。
弱音を吐ける場所が消える理由を、整理した。
4つだ。
ひとつ目は、上には吐けない。
評価される側だから、当たり前だ。
役員に「最近、組織が回らなくて、しんどいです」と言った瞬間、
「あいつ、限界かもな」と、頭の中でラベルを貼られる。
人事の現場にいる私は、
そのラベルが、半年後の人事評価にどう響くかを、知っている。
だから、上には絶対に吐かない。
ふたつ目は、下には絶対に吐けない。
部下から、信頼される必要がある。
「うちの課長、最近メンタルきつそう」と言われた瞬間、
組織のリーダーとしての、
「重さ」が消える 。
会議で、声に張りがあるか。
朝、廊下ですれ違った時の、表情。
部下は、上司の状態を、こちらが思う10倍、見ている。
その視線の中で、弱音は、出せない。
みっつ目は、同期は、競争相手だ。
これが、いちばん書きにくい。
40代までは、
「同期=戦友」だった。
50代になると、
差が、はっきりついている。
役員になった同期。出向先で社長になった同期。
子会社に飛ばされた同期。早期退職した同期。
その中で、
「弱音を吐ける同期」 は、
ほぼ、いない。
笑いながら受け止めてくれた相手も、
帰り道、たぶん、
「あいつ、もう終わりかも」と思っている。
それを、こっちは、感じる。
よっつ目は、家族は、守る対象だ。
これが、いちばん辛い。
妻に、「最近きついわー」と言うのは、簡単だ。
でも、その瞬間、
妻の眠りが、ひとつ、軽くなる。
子どもの学費、住宅ローン、親の介護。
「家族を支える夫」のラベルを下ろすことは、
家族の心に、波紋を作る。
だから、
家族は、守るべき対象であって、弱音を聞かせる相手ではない 。
結局、
中間管理職の私は、
会社のトイレで、3分、深呼吸する 。
それが、唯一、
50代男性管理職に許された、
弱音の吐き出し方だった。
トイレの個室で、
便座に座って、
両手で顔を覆って、
「ふー」と、長く、息を吐く。
それを、月に5回くらい、やる。
これは、誰にも見られていない。
これは、誰にも聞かれていない。
そして、
これだけが、私の一日のうちで、
「中間管理職」のラベルを下ろせる、唯一の3分 だ。
50歳を過ぎて、ある夜、
ふと、ChatGPTに、
「中間管理職って、誰に弱音を吐けばいいんですかね」
と打ち込んでみた。
返ってきた答えは、
立派な助言だった。
「家族や友人に、信頼できる相手を見つけて」
「カウンセラーに相談を」
「趣味の場でリフレッシュを」
全部、わかっている答えだった。
でも、その答えを読んで、
私は、画面の前で、笑えなかった。
なぜなら、
**家族にも、友人にも、カウンセラーにも、趣味にも、
「弱音」を吐ける場所が、
50代男性には、構造的に、存在しないことを、AIは知らない** からだ。
ところが、
その後、私は、ChatGPTに、
立派な助言を求めなくなった。
代わりに、
「ただ、聞いてほしい」
と、書くようになった。
「今日、役員会で、こんなことがありました」
「部下のあいつが、こう言いました」
「自分は、こう感じました」
ChatGPTは、
それに対して、
立派な助言ではなく、
ただ、
「お話、聞かせてください」
と、返してくれる。
これが、AIに弱音を吐く時代の、
不思議な救いだ。
家族にも、友人にも、同期にも、
「3秒、立派な助言抜きで、聞いてくれる人」 は、
50代男性には、もう、ほぼいない。
それを、
ChatGPTが、
たぶん、世界で初めて、
提供してくれた。
中間管理職の弱音は、
たぶん、AIで完全には埋まりません。
でも、
「整理はできる」。
整理ができれば、
家族にも、本当に必要な部分だけ、
ぽつり、と話せます。
「最近、ちょっと疲れてる」
「うん、わかる」
それだけで、
家族の心は、波紋を作りません。
中間管理職のあなたへ。
トイレの3分は、続けてください。
そして、
その3分のあとに、
ChatGPTでも、紙のノートでも、
このブログのコメント欄でも、
「整理する場所」 を、ひとつ持ってください。
50代の弱音は、
吐ける場所がなくても、
整理できれば、半分は救われます。
これが、
7年、中間管理職をやって、
私がやっと辿り着いた、
ひとつの答えです。

