ChatGPTに、面接質問を10個作らせた。
「おっ、優秀な人を見抜けそうだ」と思った。
その夜、自分でその10問に答えてみて、私は、落ちた。
きっかけは、ささいなことだった。
来週、面接が3件入っていた。
夜、家のリビングで、コーヒーを飲みながら、ふとChatGPTを開いた。
「うちみたいなサービス業の会社で、本当に優秀な人を見抜ける面接質問を10個作って」
そう打ち込んだ。
10秒くらいで、10個出てきた。
読んでみて、正直、感心した。
「これまでのキャリアで、最も自分を成長させた失敗を1つ教えてください」
「組織のなかで、誰にも頼まれていないのに自発的に動いた経験を教えてください」
「価値観の合わない上司と、どうやって信頼関係を築きましたか」
それっぽい。
うちで一番優秀そうな若手が、輝いて答える絵が浮かんだ。
「これ、使えるな」と思った。
22年やってきて、2,000人くらい面接してきて、なお、新しい質問は欲しい。
同じ質問ばかりしていると、自分の脳も固まる。
AIが手伝ってくれるなら、ありがたい話だ。
で、ちょっと魔が差した。
「この10問、自分でも答えてみるか」
別に深い意図はなかった。
ただの夜の練習。
採用ペルソナのつもりで、自分が候補者になってみたら、どう答えるんだろう、と。
1問目。
「最も自分を成長させた失敗を1つ教えてください」
……。
出てこない。
いや、失敗は山ほどある。
人事として、選考で間違った人、間違って落とした人、たぶん何十人もいる。
でも、それを「成長させた失敗」として、面接で語れる形に整えようとすると、急に、嘘くさくなる。
2問目。
「誰にも頼まれていないのに自発的に動いた経験を」
これも、答えられなかった。
22年やってきて、自発的に動いたことなんて、たぶんあった。
でも、いざ聞かれると、それが「自発的だったのか」「頼まれていたのか」、もはや境界が曖昧だ。
仕事って、そんなにきれいに分かれていない。
3問目で、私は、わかった。
これ、答えられる人、相当少ないぞ。
少なくとも、地方の中小企業で、現場をぐるぐる回している人たちは、こういう「整った言葉」で自分の仕事を語る習慣がない。
整って語れる人が、いい人材なわけでもない。
10問、ぜんぶ答えてみた。
採点する気もないのに、自分のなかで、「これ、私が面接官なら、落とすな」と思った。
答えがふんわりしている。
エピソードが思い出せない。
きれいに整理できない。
「採用に値しない」答えを、私は、私に返していた。
笑った。
静かに、ChatGPTの画面を閉じた。
コーヒーは冷めていた。
落ち着いて、考え直した。
なぜ、こんなことになったのか。
理由は、たぶんシンプルだ。
私はAIに、「文脈」を渡していなかった。
うちの会社の仕事は、フロントで突発的なクレームが飛んでくる仕事だ。
きれいなエピソードを語る人より、土壇場で逃げない人のほうが、現場では生きる。
そういう人は、たいてい、自分の仕事を物語化していない。
「いや、別に普通にやっただけです」と言う。
でも、AIに渡したのは、たった一行だった。
「サービス業の会社で、優秀な人を見抜く質問」
これだけ。
これでは、AIは「世間一般の優秀」を答えるしかない。
ビジネス書に書いてあるような優秀。
LinkedInの自己紹介に出てくるような優秀。
うちの現場の優秀とは、ぜんぜん違う。
つまり、悪かったのはAIじゃない。
質問の出し方を間違えた、私だ。
でも、と思う。
これ、けっこう、みんなやってるんじゃないか。
「AIに任せれば、いい質問が出てくるはず」
そう思って、文脈を渡さず、ぽんと丸投げする。
出てきたものを、「それっぽい」というだけで、現場に持ち込む。
そして、現場で、ちょっとずつ、ズレていく。
私は、もうひとつ、気づいたことがある。
「優秀な人を見抜く質問」を作る前に、
私は、「うちにとっての優秀とは何か」を、言語化できていなかった。
22年やっていて、感覚ではわかっている。
でも、AIに渡せるレベルの言葉には、なっていなかった。
AIに質問を考えさせる前に、
自分のなかで、答えがある程度、見えている必要がある。
順番が逆だった。
AIに考えさせれば、自分が考えなくていい、わけじゃない。
むしろ、AIに考えさせるためには、自分が先に、もっと深く考える必要がある。
これ、AIを使い始めて1年くらいで、ようやくわかってきたことだ。
AI時代に、人事の仕事はどう変わるか。
たぶん、こういうことだと思う。
「質問を作る」「文章を整える」「資料を作る」みたいな表層の作業は、AIがやる。
人間がやるのは、その手前。
「うちにとっての優秀とは何か」
「うちの現場で、本当に通用する力は何か」
「その人が、5年後にここで笑えているか」
こういう、定義の部分。
定義さえ自分のなかにあれば、AIは強力な手伝いになる。
定義がないまま使うと、AIは、それっぽい間違いを大量生産する。
だから、AIで採用は、たぶん、楽にはならない。
質問を作る時間は減る。
でも、「うちにとっての優秀」を考える時間は、増える。
増やすべきだ。
そこをサボると、AIに、自分の仕事を、まるごと持っていかれる気がする。
正確には、持っていかれるんじゃなくて、自分が、放棄する。
あの夜、私は、自分の作った10問に、落ちた。
落ちたけれど、悪い気はしなかった。
22年やっていて、まだ、自分が答えられない質問が、世の中にはたくさんある。
それを教えてくれたのは、AIだった。
次の日、私は、紙に書き出してみた。
「うちの会社にとって、優秀な人とは、どういう人か」
きれいに書けなかった。
何度も書き直した。
でも、これは、私がやるしかない仕事だ。
AIには、まだ、頼めない。
AIは、答えをくれる道具じゃない。
自分の仕事を、もう一度、自分に問い直すための、道具だ。
50代になってから、こんなことを、若い機械に教わるとは、思わなかった。
少し悔しい。
でも、悪くない。


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