まだ会議で怒鳴ってる社長へ。続編 ―若手は、その夜に退職代行のサイトを開いている

人事・組織

あの記事を書いた翌日、社長が、また会議で怒鳴った。

詰められた若手は、もう驚かなかった。

ただ、その夜にスマホで「退職代行 安い」と検索していた。


前回のnote記事を、たぶん、社長は読んでいた。

人事の私が書いた、「会議で怒鳴った日、若手が辞表を出した」という記事だ。

社長から直接何か言われたわけではない。

でも、翌週の役員会の空気が、明らかにそわそわしていた。

「最近、人事のあいつが何か書いてるらしい」

そういう囁きが、社内で回っていることは知っていた。


それでも、社長は変わらなかった。

その翌日、また会議で部下を詰めた。

声のトーンも、言葉選びも、前回と同じ。

ただ、若手の反応が違った。

前回は、ショックで黙った。

今回は、最初から、ずっと黙っていた。


会議のあと、私はその若手の机を遠目に見ていた。

スマホを触っている。

LINEではなさそうだ。

ブラウザだ。

何を見ているか、想像はついた。


夜、彼から「ちょっと相談が」とメッセージが来た。

居酒屋ではなかった。

会社近くのコンビニのイートインだった。

彼は、ホットコーヒーを買って、私の前に置いた。

「社長を変えてほしいとか、そういうことじゃないんです」

そう、最初に言った。

「ただ、もう、ここでは何も言えない自分に、我慢できなくなりました」


これが、静かな退職 の本当の姿だ。

「静かな退職」という言葉は、海外から輸入された概念だ。

辞めずに、最低限の仕事だけする状態。

日本語にすると軽く聞こえる。

でも、現場で見ると、これはむしろ、

会社にとって最悪のシナリオ だ。

なぜなら、辞めないから、気づかれない

辞めてくれた方が、まだ問題が見える。

辞めずに、魂だけが先に辞めた状態で、机に座っている。

業務はこなす。会議では発言しない。

会社からは「ちゃんと働いている」ように見える。

そして半年後、ある朝、

退職代行から、まとめて3人分の連絡が来る。


これが、私が今いちばん怖いと思っている現象だ。

そして、AI時代は、これがもっと加速する。

なぜなら、魂が辞めた状態でも、仕事がそこそこ回ってしまう からだ。

ChatGPTが資料を作ってくれる。AIが議事録を書いてくれる。

業務の質は落ちない。

落ちないから、誰も気づかない。

気づかないから、社長は変わらない。

社長が変わらないから、若手はまた、夜に退職代行を検索する。


前回の記事のラストに、私はこう書いた。

「AI時代に残るのは、安心感のある上司だけだ」と。

今回、もう少し踏み込んで書く。

AI時代に最後まで残るのは、「あの会議室の空気」を作れる人だ。

技術は学べる。プロンプトは書ける。

でも、若手が「ここで発言しても大丈夫だ」と感じられる空気は、AIには作れない。

その空気を、社長一人の機嫌で凍らせる会社は、

AI時代に、いちばん早く崩れる。


コンビニのイートインで話したあの夜、

私は彼に「辞めないでくれ」とは言わなかった。

言えなかった。

ただ、

「いま社長を変えるのは無理だけど、君が話せる場所は、少なくとも一つはあるからね」

そう伝えた。

彼は、ホットコーヒーをやっと一口飲んで、

「ありがとうございます」と、小さく頷いた。


まだ会議で怒鳴ってる社長へ。

あなたが詰めた若手は、その夜、退職代行のサイトを開いています。

辞めるかどうかは、彼の判断です。

でも、少なくとも、

「あの会議室にいる時間が、人生で一番無駄な時間だ」と感じている部下が、いま3人はいます。

それを、忘れないでほしい。


そして、あの夜のコンビニで、

ホットコーヒーを置いて去っていった彼の背中を、

私は、たぶん一生忘れない。

その背中が、AI時代に消えてしまわないように、

私はこのブログを書いている。

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