メーカーが、直接、消費者に売る時代。
そう信じて、3年走った。
ある朝、
それが幻想だったと、気づいた。
Amazon物販を始めて、
軌道に乗り始めた頃、
「これからはD2Cだ」という声が、
業界の至るところで、聞こえていた。
D2C。
Direct to Consumer。
メーカーが、卸を通さず、
直接、エンドユーザーに売る。
中間マージンが消える。
ブランドの世界観を、自分でコントロールできる。
顧客データが、全部、手に入る。
これが、
「これからのメーカーの、唯一の生き残り方」 だと、
セミナーでは、繰り返し語られていた。
私も、信じた。
熊野筆ブランドを再生させる時、
「直販で行く」と決めて、
3年、走った。
自社ECサイトを立ち上げた。
Amazonにも、自分で出品した。
楽天にも、Shopifyにも展開した。
最初は、伸びた。
中間マージンが消えた分、
利益率が、
確かに、最初の半年は、夢のように高かった 。
ところが、3年目の冬、
ふと、決算書を見ていて、
気づいた。
**直販で得られた利益率の上昇分が、
別のコストで、ほぼ、相殺されていた** のだ。
整理すると、こうだった。
ひとつ目は、物流コストだ。
卸を通すと、
100個まとめて、卸先の倉庫に送ればよかった。
直販になると、
1個ずつ、お客様の家に送る 。
送料、梱包資材、配送ミス時の再配達。
これが、
積み重なると、利益率を、確実に削った。
ふたつ目は、CSコストだ。
「カスタマーサポート」のコストだ。
卸を通すと、
クレームは、最初に小売店が受ける。
直販になると、
全部、自分のところに来る 。
商品が届かない、
色が思っていたのと違う、
サイズが合わない、
返金してほしい、
レビュー削除してほしい、
返金されないので消費者センターに相談した、
これらを、ひとつずつ、
夜中までメールで対応する。
50代の私は、3年目で、
メンタルが、削られ始めていた 。
みっつ目は、広告費だ。
卸先の小売店は、
「自分のお客様」を、もう持っていた。
直販になると、
自分で、お客様を見つけてこないといけない 。
つまり、
広告費が、永遠に、必要になる。
しかも、競合が増えれば増えるほど、
広告のCPCが上がる。
直販で得た利益率の上昇分が、
広告費で、毎月、消えていく 構造だった。
よっつ目は、レビュー対応だ。
これが、いちばんメンタルに来た。
レビュー☆1への返信を、
夜中の3時に書きながら、
「これ、卸を通していたら、
小売店の店長が引き受けてくれていた話だな」
と、思った。
3年目の冬、
私は、
「メーカー直販」という幻想を、半分、捨てた。
捨てた、というより、正確に書くと、
「直販を、思想ではなく、技術として扱う」 ように変えた。
直販が、自社にとって、有利な商品。
卸の方が、自社にとって、有利な商品。
これを、
冷静に、商品ごとに、選別するようにした。
すると、
利益が、回復した。
職人さんへの支払いも、
無理なく、できるようになった。
そして、
夜、ちゃんと眠れるようになった。
ここで、AI時代の話につなげたい。
AIで、個別対応のコストが、これから、確実に下がる。
CSもチャットボットで一次対応できる。
レビュー分析もAIで自動化できる。
商品紹介文もAIで書ける。
つまり、
直販のコスト構造は、これから、変わる 。
ただし、
これは、
「直販が、また有利になる」 とは限らない。
なぜなら、競合も、同じツールを使うからだ。
競合が、AIで広告コピーを100本量産する時代に、
50代のメーカー直販が、勝てるのは、
「広告コピーの量」ではない。
私が、
3年で身につけたのは、
**「自分のブランドが、本当に伝えたい言葉を、
100本のうち、どの1本に絞るか」** という、
選別の眼だった。
これは、AIには、まだ、できない。
なぜなら、AIは、
「捨てる勇気」 を持てないからだ。
50代で物販に挑戦している、あなたへ。
「直販がブランド」は、思想ではなく、技術です。
D2Cブームに乗って、自社ECに全部投資する前に、
「自分の商品が、卸と直販、どちらに向いているか」 を、
商品ごとに、
冷静に、選別してください。
そして、
「捨てる勇気」 を、
今のうちに、
50代の経験値で、磨いておいてください。
それが、
AI時代に、
メーカーが本当に生き残るための、
最後の、人間の仕事です。
幻想を捨てた朝、
私は、
3年ぶりに、
カフェで、ゆっくりコーヒーを飲みました。
ブランドは、
走り続けることでは、育ちません。
時々、立ち止まって、
「何を捨てるか」を、
考える時間で、
育ちます。

