長年使ってきた、うちの求人票。
ChatGPTに「応募者の目線で書き直して」と頼んだ。
返ってきた文章を見て、私は、3分、画面を見たまま、動けなかった。
応募が、倍になった。
たったそれだけのことで。
何を変えたのかというと、本当に、ほんの少しの言葉だ。
人事を22年やっている。
面接をした人数は、たぶん2,000人を超える。
求人票も、自分で何百本と書いてきた。
だから、正直に言うと、自分の書く求人票には、それなりの自信があった。
業界の構造も、職種ごとの勘所も、応募者がどこを見るかも、わかっているつもりだった。
つもりだった、というのが、今回の話の全部だ。
きっかけは、現場のある職種で、半年、応募がほとんど来なかったことだった。
媒体は変えた。
掲載順位も上げた。
写真も差し替えた。
それでも、来ない。
「もう、この職種は不人気なんだ」
社内では、そういう空気になりかけていた。
私自身も、半分そう思っていた。
ある夜、なんとなく、ChatGPTに自社の求人票を貼り付けてみた。
そして、こう打ち込んだ。
「この求人票を、はじめてこの業界に応募する20代の目線で、率直に感想を聞かせてください。耳の痛いことも遠慮なく」
返ってきたのは、こんな内容だった。
「全体的に、すでにこの業界で働いている人向けの言葉で書かれています」
「『接遇マインド』『現場感覚』『お客様第一』という言葉は、社内では明確ですが、業界外の方には、何を求められているのか伝わりません」
「『学歴不問・未経験歓迎』とありますが、その下に書かれた『即戦力として活躍』という言葉が、未経験の方の応募意欲を削ぎます」
「歓迎条件が9項目あります。読む側は、9つすべて満たさないと応募できないと感じる可能性があります」
私は、画面の前で、固まっていた。
全部、当たっていた。
「接遇マインド」も「現場感覚」も、私たち業界の人間にとっては、空気のように使っている言葉だ。
でも、業界の外から見たら、何の輪郭もない言葉だった。
「未経験歓迎」と書きながら、その下の行では「即戦力」と書いている。
書いた本人は、両立しているつもりだった。
でも、読み手からしたら、矛盾している。
応募してほしい、と書きながら、応募するな、と書いていた。
自分のクセが、見えた瞬間だった。
ChatGPTに、書き直しを頼んだ。
条件はひとつだけ。
「業界の外にいる人に、何が求められているのか、誤解なく伝わるように」
返ってきた文章は、私たちが20年使ってきた言葉とは、別物だった。
「接遇マインド」は、「人と話すのが、嫌いではない方」になった。
「現場感覚」は、「マニュアル通りでない判断が必要な場面で、まずやってみようと思える方」になった。
「即戦力」という言葉は、消えた。
代わりに、「3ヶ月かけて、先輩と一緒に現場に慣れていただきます」と書かれていた。
正直、最初は、抵抗があった。
こんな、やわらかい言葉で、本当にいい人が来るのか。
業界として、軽く見られないか。
20年やってきた、私たちの「言葉の品格」みたいなものが、削られていく感覚があった。
でも、と思った。
品格を守って、半年、ゼロだったじゃないか。
その品格は、誰のためのものだったのか。
求人票は、社内の人に読ませるものじゃない。
まだ会ったことのない、誰かに、届ける手紙だ。
書き直した求人票を、媒体に出した。
媒体は変えていない。
掲載順位も、いじっていない。
予算も、同じ。
変えたのは、言葉だけだ。
2週間で、それまでの半年分を超える応募が来た。
最終的に、前年同月の、約2倍。
数字を見ながら、私は、嬉しさよりも、こわさを感じていた。
この半年、私たちは、優秀な応募者を、自分たちの言葉で追い返していた。
たぶん、半年だけの話じゃない。
何年もの間、同じことをやってきた。
誰のせいでもない。
私のせいだ。
この経験で、私はAIの使い方について、考えが変わった。
よく言われるのは、「AIは優秀な部下だ」「AIに作業を任せて、時間を空けよう」という話だ。
それも、間違いではないと思う。
でも、私にとって、いちばん価値があったのは、そこじゃなかった。
AIは、鏡だった。
自分が、22年かけて染み込ませてきたクセを、こちらが何も言わなくても、映し返してくる鏡。
業界の中にいて見えなくなっていた、自分の言葉の輪郭を、業界の外の目で照らし返してくる鏡。
この鏡は、けっこう、こたえる。
プライドを、削られる。
自分のキャリアの、根っこのところを、しれっと指摘してくる。
でも、この鏡を使えるかどうかで、これからの10年は、たぶん、はっきり分かれる。
地方で、人を採れない、という話を、同業の方から、本当によく聞く。
「もう、若い人は地方に残らない」
「うちみたいな業界には、来てくれない」
「媒体に金を積むしかない」
その気持ちは、痛いほどわかる。
私も、ずっと、そう思ってきた。
でも、もしかしたら、と、いまは思う。
来ない理由の半分くらいは、私たちが、無意識に閉じている扉の側にあるのかもしれない。
採用予算を、倍にする前に、できることがある。
媒体を、変える前に、できることがある。
自社の求人票を、ChatGPTかClaudeに貼って、こう聞いてみる。
「この求人票を、業界の外から見たら、どう読めますか」
「応募をためらわせる言葉があったら、教えてください」
たったそれだけだ。
5分で終わる。
お金もかからない。
返ってくる答えに、たぶん、最初は、むっとする。
20年やってきたプライドが、ちりちりする。
でも、その「ちりちり」の中に、次の応募者がいる。
明日の朝、いちばんに、自社の求人票を、もう一度、AIに読んでもらってほしい。
それは、AIに採用を任せる、ということじゃない。
自分のクセを、もう一度、自分で見直す、ということだ。
鏡を、こわがらないこと。
それが、AI時代の人事に、いちばん必要な姿勢なんじゃないかと、いま、思っている。


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