なぜ優秀な人ほど、ボーナス査定の翌週に辞めるのか?

人事・組織

ボーナスが出た翌週、いつも誰かが辞表を出してくる。

20年、人事をやってきて、これだけは確信を持って言える。

そして、辞めるのは、

査定が悪かった人ではない。

そこそこ査定が良かった、優秀な人 だ。


ボーナス査定の翌週の朝、

人事室には、独特の空気が流れる。

電話が一本鳴る。

「ちょっと、お時間いいですか」

その声で、もう、わかってしまう。


私が見てきた「優秀な人」が辞めるパターンは、いつも3つだ。

ひとつ目は、期待値とのギャップだ。

優秀な人ほど、自分の貢献度を、自分で計算している。

「今期、自分はこの数字を作った」「あの案件をクロージングした」

その自己評価と、ボーナスの金額が、

1ミリでもずれていると、心が動く

これは、欲深いという話ではない。

優秀な人は、お金そのものより、

会社が自分をどう見ているか」を、

ボーナスの金額で読み取る。

「そこそこ」を渡された瞬間、

「自分はそこそこの人間として見られている」と受け取る。

そして、その夜から、転職サイトを開く。

ふたつ目は、「ありがとう」の総量が足りないことだ。

これは、もっと地味なサインだ。

優秀な人は、半年間、誰よりも頑張っている。

でも、半年間で、

「ありがとう」「助かった」を、何回もらったか

これを、本人は数えている。

たいてい、2桁いかない。

会社からは、ボーナスという「数字」が渡される。

でも、本人が欲しかったのは、

もっと前に、もっと小さい「ありがとう」だった

ボーナスの金額を見た瞬間、

「ああ、結局、自分はここでは数字でしか見られていない」と、

確信に変わる。

みっつ目は、自分の市場価値を、社外で測っていることだ。

優秀な人は、ボーナスをもらう前から、

すでに、社外で自分の値段を確認している。

エージェントとの会話。LinkedInのスカウト。

「もし転職したら、いくらもらえるか」を、

本人はリアルな数字で知っている。

ボーナスを受け取った瞬間、

その社外の数字と、社内の数字を、心の中で並べる。

差が大きすぎると、

辞表を出すのは、もう「決断」ではなく、

「事務手続き」になる。


ここで重要なのは、

「給料を上げれば辞めない」ではない、ということだ。

実は、もっと安く済むことがある。

それは、

ボーナス査定の翌週に、上司が、その人に何を言うか だ。


私が、20年で唯一、

ボーナス翌週の退職を引き止められたケースは、

全部、上司の一言から始まっていた。

金額の話ではなかった。

「君のおかげで、今期、本当に助かった。

来期は、君に任せたい仕事がある」

たった、これだけだ。

これを、ボーナス支給日の その日 に、

直接、本人に言えるかどうか。

それで、優秀な人の半年が、

「会社で過ごした半年」になるか、「会社のために消費された半年」になるか が、

決まる。


そしてAI時代になって、これはもっとシビアになる。

優秀な人は、AIで自分の市場価値を、もっと早く正確に測れるようになる。

ChatGPTに自分の経歴を見せて、

「私の市場価値はいくらですか?」と聞けば、

3秒で、リアルな相場が返ってくる。

転職サイトに登録する手間もない。

スカウトを待つ必要もない。

つまり、

「優秀な人が辞表を出すまでのスピード」が、AIで一気に短くなった

ボーナス支給日から、辞表まで、

5年前は1ヶ月かかっていた。

いまは、3日だ。


ボーナス査定の翌週、

人事責任者として、私が一番気にしているのは、

「査定の妥当性」ではない。

「上司が、その人に何を言ったか」 だ。

数字を渡すのは会社の仕事。

「ありがとう」を直接言うのは、上司の仕事。

これを切り分けられない会社は、

優秀な人から、順番に消えていく。


ボーナス査定が良かった部下に、

今週、何を言いましたか。

金額の話は、もう経理がやっている。

人事責任者として、私があなたに言いたいのは、

「君のおかげで、本当に助かった」

これを、

翌週ではなく、その日のうちに

伝えてください、ということだ。


それだけで、

辞表が、一通、減ります。

たった一言で、

10年の関係が、変わります。


50歳になって、私はようやく、

「ありがとう」の重さを、本気で理解し始めている。

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